2006年08月11日

◆夏の行事、お盆・盂蘭盆会(うらぼんえ)(十一)

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◆夏の行事、お盆・盂蘭盆会(うらぼんえ)(十一)

◆◇◆「お盆」「盂蘭盆会(うらぼんえ)」、柳田國男の霊魂観『先祖の話』

 「柳田國男がライフワークともいうべき『先祖の話』(全集文庫版の第十三巻)を執筆したのは、空襲警報の下だった。昭和二十年の五月から敗戦後の秋にかけてである。柳田の慧眼は、いまの“靖国”をめぐる混乱を鋭く見抜いていたというほかない。

 『先祖の話』は、日本人の古来の霊魂観や死生観を取り上げこう書いていた。〝少なくとも国のために戦って死んだ若人だけは、何としてもこれを仏徒のいう無縁ぼとけの列に、疎外しておくわけには行くまいと思う〟。敗戦濃厚となった日々、国難に殉じた人びとのタママツリ(魂祭り)に強い危機感をおぼえたのだろう。

 柳田は、国ごとに常識の歴史というものがあるといい、民族の年久しい慣習を無視しては英霊は安んじて眠ることはできないと心底憂えていた。(中略)〝人は死ねば子や孫の供養や祀りを受けて祖霊に昇華し、故郷の村里をのぞむ山の高みに宿って、人や家や国の幸福や繁栄を見守る〟というのが柳田の霊魂観だった。」

産経新聞の産経抄(平成十四年八月十五日)より抜粋

 民俗学の父・柳田國男(※注1)は、敗戦が色濃くなった昭和二十年五月から、日本の行く末を心配し、『先祖の話』(※注2)を一気に書きあげたそうだ。先祖を大切にする心があれば、戦後の混乱にも、けっして日本人であることを失うことはないと考えたのであろう。

 そのためには先祖のことを書いておかなければならない、という思いが遺言のように込められているようだ(※注3)(柳田國男は、戦争に敗北後、日本がアメリカの統治下に入ることを予期して、日本人の自己認識(アイデンティティ)を保持しておこうと考えたためと言われいる)。

※参考Hints&Notes(注釈)☆彡:*::*~☆~*:.,。・°・:*:★,。・°☆・。・゜★・。・。☆.・:*:★,。・°☆

(※注1)日本全国の古来の様々な風習、伝統といったものが日本の近代化によって急速に消滅していくなか、柳田國男が切り開いた民俗学は、忘れかけていた伝統的な日本のよさと祖先たちに代表される日本と日本人の本質(古きよき日本を理解する上で極めて重要かつ多様な問題)を甦らせる。

 柳田の半生は、終始一貫、民俗学を通して日本人の人生観、死生観、世界観、宇宙観を探ることにあった。彼の作品に綿々とそのことが綴られている。柳田の業績は日本研究(日本学)の根幹に関わるものとして高く評価されている。

(※注2)柳田國男は、第二次大戦中から、次第に日本人の基層信仰に焦点を定め、昭和二十年(一九四五年)七月に『先祖の話』を完成し、なお『新国学談』三部作に取り組んだ。そこには祭りや氏神、祖先崇拝、民間信仰を研究することによって、民俗学を経世済民の学として位置付けようとする気概が読み取れる。

(※注3)柳田國男は『先祖の話』のなかで、死者が「帰る山」について、次のように語っている。「無難に一生を経過した人々の行き処は、是よりももっと静かで清らかで、此世の常のざわめきから遠ざかり、且つ具體的にあのあたりと、大よそ望み見られるやうな場所でなければならなぬ」。

 かつて私たちは、確かな死後の世界を持っていた。それは、「人は死ぬと山へ帰る」と。だから「いずれは私もあのお山へ帰っていくのだ」と、村の周囲にひときわ秀でたそのお山を崇拝したのである。現代人は死のイメージを持たなくなったようだ。生も死も本来は自然のものだ。

 ところが生命科学の発達とともに、驚異的な勢いで人手に移ってしまった。生死は儀式であり祭りであり、他界への出入り口であったのである。その豊穣なイメージを喪失したところに、私たち現代人の“生の不安”の根源がある。


スサノヲ(スサノオ)


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